伊香保関所跡 昭和57年12月建立 揮毫者 書家 佐々木心華
「伊香保風」は「アサマツ」か
この歌は、とてもわかりやすい歌であるにもかかわらず、上州の人間からすると「伊香保風」というのがどうもしっくりこない。上州といえば「からっ風」で、それを代表するのは北から吹く「赤城おろし」です。それににくらべると西の榛名山(伊香保山)から吹きおろす風 とうのは、地元の者にはどうもいまひとつイメージがわきません。
研究者たちがいうように、利根川沿いの広い地域で北側から吹い てくる風を、文化の中心地であった八幡塚古墳や上野国分寺のあたりから「伊香保風」といった のでしょうと解釈したいところですが、はやりどこか違和感が残ります。
そんな違和感をぬぐいきれないとき、都丸十九一先生が「アサマツと女の腕まくり」という地元のことわざの紹介で、「伊香保風」のことにふれているのを知りました。都丸先生は、子どものときから「アサマツ」という言葉を用いるまっただ中に育ち、時にはその被害も受けてきたという。
「アサマツは3月から5月ごろまでの間、西方から吹く強風。わが国の西風の方言は珍しいというが、ましてアサマツなどというのは珍しい。漢字をあてるとしたらどんな字をあてたらよいのであろうか、久しく思いあぐねていた。
この方言の分布は、赤城山南西麓から吾妻町、榛名山東麓から高崎市北部あたりまでである。ちょうど西方にある浅間山が見え、隠れする地域である。そこでアサマツは「浅間っ風」であろうと思っている。ごく一部ではあるがアサマッカゼともいっているのである。
ところで富士見村には、「アサマツと女の腕まくりは夜になればおさまる」のことわざがある。その通りで、アサマツは、連日吹きつのることはない。前記のように何日かのうちに一日か二日吹く。朝になると吹き始めて、日中はとくに激しく、砂塵をまき上げてものすごい。しかし、夜になれば一旦はかならず止む。」
都丸十九一『上州ことわざ風土記』上毛新聞社
として、万葉集上野国歌の伊香保風はアサマツの風ではなかったかと指摘しています。
真偽のほどはわかりませんが、これならば「伊香保風」がとてもしっくりと理解できます。
【企画・制作】 Hoshino Parsons Project